最近SNS上で大きな話題になった事例によると、特定のゲーム音声(ボイス)が無許可でAIモデルに利用されていた可能性が指摘されています。この一件はAIを利用するすべてのクリエイターにとって無視できない重要な教訓を含んでいます。特にAI音声(AI合成音声)とAIイラストでは法的リスクが全く異なることを理解する必要があります。
本記事は特定の話題の真相を断定するものではありません。あくまでAIを利用する上で起こりうるリスクを理解するための、一つのケーススタディとしてお読みください。
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なぜAI音声はイラストと違うのか?
多くの人が誤解していますが、AI音声とAIイラストは法律上の扱いが根本的に異なります。
イラストのAI生成は既存の画像を参考にAIが新しいイラストを生成します。生成された画像が元の画像と酷似していなければ著作権侵害を問うことは難しいとされています。
ただしAIイラストも完全に問題がないわけではありません。肖像権や学習素材の無断利用といった点で法的な議論やコミュニティ内での対立が今も続いています。
一方、AI音声合成は元の音声データ(声優の「実演」)を無断で複製し利用する行為です。これは単に「似たものを作る」のではなく「他人の財産そのものを無断利用する」行為にあたります。
AI音声に適用される「著作隣接権」
音声にはイラストにはない「著作隣接権」という権利が適用されます。
- 声優や歌手などの声は法律上「実演」として保護されます。
- 実演家は自分の声を録音・複製する権利を独占的に持っています。
したがって今回の騒動のようにゲームなどから音声を無断で抜き出してAIに学習させる行為はこの著作隣接権の明確な侵害となる可能性があります。
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「NOMORE無断生成AI」活動の背景
近年、一部の声優達が「NOMORE無断生成AI」という活動をしているのをご存じの方も多いかと思います。「著作隣接権があるならなぜわざわざ声を上げる必要があったのだろう?」と感じた方もいるかもしれません。今回の騒動はゲーム音声の無断複製という点で法的な問題が指摘されていますが、声優たちがこのような活動をする背景には法律だけでは解決が難しい様々な事情があると考えられます。
- 立証の困難さ:AIが生成した音声が特定の誰かの声から作られたと法的に証明するのは極めて難しいのが現状です。今回のケースは製作者とされる人物自身が経緯を明かしたからこそ違法性が明らかになりましたが通常はそうはいきません。声優たちは泣き寝入りせざるを得ない現状を変えたいのかもしれません。
- 「AIの声」と「声優の声」の混同:AIが作った「似た声」が、まるで本人が演じているかのように利用されると、声優のブランドやイメージが損なわれるリスクがあります。これは法律で明確に裁くのが難しく、倫理観や社会的なルールの問題です。
- 文化の保護:声優達はAI技術そのものを否定しているわけではありません。彼らは無断利用が横行することで、新しい作品を生み出す「創作の土壌」が失われることを懸念しています。新しい技術と既存の文化が共存できる未来を、対話を通じて作りたいと考えているようです。
彼らの活動は単なる法的措置の要求ではなく、AI時代におけるクリエイターの権利と健全な文化のあり方について考えるきっかけを与えてくれたと言えるでしょう。
学習元不明のAIモデルは使わない方がいい理由
今回の件が示した最大の教訓は学習元が不明なAI音声モデルは、たとえ無料で配布されていても絶対に使用しない方がいいということです。
- 違法行為への加担のリスク:もし使用しているモデルが違法に作られたものであれば、あなたは知らず知らずのうちに違法行為に加担していることになります。
- 活動の停止リスク:実際に今回の騒動を受けて多くのAI音声利用者が自身が作成した動画を削除・非公開にしています。違法性が明らかになれば作成した動画やコンテンツはすべて削除しなければなりません。これまでの努力が無駄になるだけでなく大きなリスクを負うことになります。
安全なAI利用のために私たちができること
AI技術は私たちの創作活動を豊かにする素晴らしいツールです。しかしその力を正しく使うためには、私たち自身が倫理と法律を理解する必要があります。今回の騒動を教訓にAI音声モデルを利用する際は次のことを必ず守りましょう。
- 大手企業が公開しているAIモデルを使う:企業のコンプライアンスを通過したモデルは法的なリスクが低いと判断できます。
- 利用規約を隅々まで確認する:「学習元が明記されているか」「商用利用が可能か」など使用前に利用規約を必ず確認しましょう。
- 「学習元の情報が明確で許諾を得ている」モデルを選ぶ:これが自分自身を守りクリエイターの権利を守るための唯一の方法です。
※本記事は法律の専門的な助言ではなく一般人の立場からの考察です。正確な法的判断が必要な場合は必ず専門家にご相談ください。