最近、Live2D界隈でひとつの技術的な話題が波紋を呼んでいます。
本来であれば編集不可である出力データ(.moc3)から作業・編集用のマスターデータ(.cmo3)を復元・逆コンパイルできるツールが出回っているという話です。
(※筆者自身が実際にそのツールを使用して検証したわけではなく、実際にどこまでのことが技術的に可能なのかも確証を得ていません。あくまで「そういった解析ツールが存在すると噂され、ネット上で話題になっている」という前提での考察です)
これを受けてSNS上では、モデラーを中心に強い反発や懸念の声が上がっています。利用規約に「逆コンパイルやデータ復元の禁止」を明記する動きが見られ、法的・倫理的な問題点や「技術やノウハウが盗まれるのではないか」という不安が広がっている状況です。
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一つの疑問
契約違反や無断改変が問題であることは大前提として、ここで一つ疑問があります。
「モデルの中身が見えたところで本当にそれほど大きな問題になるのだろうか?」という事です。もしかしたらプロには誰も知らない秘密の組み方があるのかもしれません。しかしモデリングの基本的な構造やパラメータのセットアップ方法はYouTube、各種技術ブログ等でほぼ全て網羅され、一般に広く公開されています。
つまり業界全体を見渡しても「中身を見なければ絶対に解明できない秘伝のタレ」のようなブラックボックス技術は最初から存在しないと言っても過言ではありません。知識そのものはすでに誰でもアクセスできる場所に転がっているのです。
Live2Dの本質とは?
ではなぜ同じ構造を知っていてもトップモデラーと初心者で圧倒的なクオリティの差が出るのでしょうか?
答えはシンプルです。Live2Dのクオリティを決定づけているのは「画期的な構造の知識」ではなく「構造の理解を土台にした作業量」だからです。
イラストに対して綺麗にメッシュを割り、破綻しないようにデフォーマの変形を何度も往復して微調整し、複数のパラメータが重なったときの歪みをひとつひとつ手作業で潰していく。仮に.cmo3データが復元でき、構造(答え)が見えたところで、その膨大で面倒な作業自体が代わりに自動化されるわけではありません。
仮にモデルの構造データが復元できたとしても、それを別のイラストにそのまま流用することは考えにくいです。デフォーマやメッシュは、あくまで特定のイラストの形状に合わせて作り込まれたものであり、絵が変われば頂点の位置は当然合わなくなります。結局は「新しい絵に合わせてゼロから調整し直す」という、地道な手間から逃れることはできません。もし本当に「1つデータがあれば量産できる」ほど単純なものなら、モデラー自身がとっくにテンプレート化して大量生産しているはずです。優秀なモデラーが過去モデルの構造をベースに次のモデルへ応用することはあるかもしれませんが、それでも量産できないのは「絵に合わせた再調整」が必要だからです。
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規約という前提
ここで整理しておきたいのは「実行できる」と「許可されている」は、まったく別の問題だという点です。
無断でのデータ復元・解析行為そのものが契約違反・規約違反にあたるのであれば、それは行為として問題です。「盗んでも大した得はしない」ことはやっていいという事ではないです。
仮にこうしたツールで技術的に何かが可能になった場合、本当に実害が出るとすればどこでしょうか。それはおそらく「技術やノウハウが盗まれること」自体よりも「原作者を介さない改変が横行し、原作者と依頼主の関係性が崩れること」の方だと思います。
- 依頼主が原作者を通さずに第三者(あるいは自分自身)で修正・改造できてしまうことで、原作者の追加パーツ・修正依頼というリピート受注の機会が失われる
- 原作者の意図しない改変が加えられたまま、原作者名義のモデルとして流通し続けるリスク
- 「二次修正は原作者の許可が必要」という契約条項そのものが、実効性を失う
それでも起きている強い反発をどう見るか
しかし実害が限定的で契約違反という一点さえ押さえれば技術的にはさほど恐れる必要がないと思います。ではなぜこれほどまでに感情的とも言える強い反発が起きるのでしょうか?
一つの見方としてモデラー側が本当に恐れているのは「技術を盗まれること」そのものではなく「自分の作り方が晒される事」なのではないか?という仮説が浮かびます。
「超可動」と言って高額な制作費を受け取っていたのに蓋を開けてみれば見えない部分の処理が驚くほど雑だった。プロの独自技術として売り込んでいた設定が、実は公式サンプルや他人の物理演算プリセットの流用に近かった。イラストの世界でトレースや素材の不適切な使い回しが「レイヤーデータ」の流出で一発で発覚するのと同じようにマスターデータ(.cmo3)を開かれてしまうと、表向きの見栄えでは誤魔化せてきた「作りの甘さ」が誤魔化しようもなく露呈します。
この「中身を見られること自体への居心地の悪さ」も反発の強さを説明する要因の一つではないかと思います。
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最後に
今回の復元ツール騒動は、契約や権利の面で業界に一石を投じたことは間違いありません。無断でのデータ解析・復元行為自体が許容されるべきではない、という点は揺るぎません。
しかし技術的な側面だけで言えば、データの中身が見られた程度で崩れてしまう仕事は「見せ方(ブラックボックス化)」だけで成立していた仕事だったとも言えます。
本物の職人が作ったモデルであれば、仮に中身を開かれたとしても「こんな見えないところまで丁寧に調整されているのか」とむしろ称賛と驚きを集めるだけでしょう。
つまり技術やノウハウを奪われる恐怖ではなく「見せ方でごまかしてきた仕事」と「地道な作業量で積み上げてきた仕事」との違いが明確になるのが一番怖いのではないでしょうか?
